●中国メーカーによる野心的なVRカメラ
リコーの「THETA」以来、iPhoneに直接取り付ける逆円錐型のミラーユニットを含めて、筆者はいくつかのVR機材を試して来たが、中国は深圳のメーカーが開発したこの製品ほど野心的なものは見たことがない。
同じメーカーのLightningコネクタ付きのiOSデバイス向けカメラとして1つ前の製品にあたるInsta360 Nanoは、性能的にはともかく外装デザインや質感などに改善の余地があったが、この新製品は、デザインの質やフィニッシュの点でも侮れない水準に達している。
撮影は、単体でもiOSデバイスにつないだ状態でも行え、さらにBluetoothによるリモート撮影やインターバル撮影も可能だ。
▲360度カメラなので基本的には表も裏もないが、製品名のあるこちらを一応正面とする。中国メーカーの製品だが、発想、デザイン、仕上げのどれをとっても非常にクオリティの高い製品となっている。(クリックで拡大)
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前後のレンズは大胆にも光軸がずれており、そのため、純粋なスティッチング(前後の半球画像を合成して全天球画像を作り出すこと)の精度はThetaのほうが上に感じられる。しかし、4Kビデオ撮影や2400万画素の静止画撮影、6軸手ぶれ補正などの機能性を詰め込んだ上で、iPhoneに装着できるコンパクトさを実現するために、たどり着いた構造なのだろう。
▲こちらが便宜上の背面だが、レンズの光軸が正面とはずれていることがわかる。おそらくリコーのThetaのような屈曲光学系を使わず、コンパクトな筐体を実現するために採られた構造と考えられる。(クリックで拡大)
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物理的なスイッチは1つのみであり、1回押しが電源オン/長押しで電源オフ、オンの状態で1回押しが静止画シャッター、2回押しがビデオ撮影開始、3回押しが後述するバテットタイム撮影開始などの割り当てとなっている。操作法で迷うことはないが、専用ケースに出し入れする際に、うっかりボタンを押して電源を入れてしまうことが多々あった。
▲電源ボタン 兼 撮影モード選択 兼 シャッターボタンのある上面から見ると、特異なレンズ配置がよく分かる。(クリックで拡大)
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Lightningコネクタは、底面にスマートに格納されており、押さえのスライドスイッチをずらすとポップアップする仕組みだ。
▲底面には、MfI認定取得のLightningコネクタが格納されている。(クリックで拡大)
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▲iOSデバイスと接続する際には、このようにLightningコネクタをポップアップさせる。また、充電用のMicroUSBポートもこの面にあり、外付けバッテリーなどから給電しながらの撮影も可能だ。(クリックで拡大)
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▲iPhoneに接続したところ。Lightningコネクタの位置の関係で、上下逆さまに接続し、アプリ画面もその状態に合わせて表示される。(クリックで拡大)
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付属品として、単純だが効果的にレンズを守り、撮影時の簡易スタンドにもなる携帯用ケースが同梱されている点も好感が持てる。
▲360度カメラは携帯時のレンズ保護が悩みだが、この製品にはハードケースが付属しているので、気軽に持ち歩ける。(クリックで拡大)
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▲ハードケースは、簡易スタンドとしても利用することができる気の利いた設計だ。ちなみに、本体の三脚穴の横にmicroSDカードスロットがあり、Class 10規格のカードで128GBまでサポートされる。(クリックで拡大)
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▲(クリックで拡大)
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先に野心的と書いたのは、360度VRカメラの世界も参入メーカーが増えるにつれて、解像度や画質競争となっていたところに、まったく新しい付加価値を持ち込んだからである。その付加価値とは、映画「マトリックス」のように、被写体をその周囲からスローモーションで飛ぶカメラがとらえたような「バレットタイム「撮影(本来の発音は「ブレットタイム」に近い)や、VR映像内の特定の被写体を自動追尾して2Dムービーに書き出す「スマートトラック」機能、そして、iOSデバイス上でVR映像を再生しながら、その中の興味のある対象物や風景を再撮影する感覚で2Dムービーを制作できる「フリーキャプチャー」機能の3つだ。
この中で、見た目の派手さから話題となっているのは主にバレットタイムだが、筆者が最も注目するのはフリーキャプチャーである。これにより、ある意味でユーザーは撮影に気をとられることなく、リアルな景色を楽しめるようになるのだ。 フリーキャプチャー機能を使ってみると、その場のシーンを丸ごと撮っておき、後から見せたい箇所を切り出すという新たな写真/ビデオ術が、いよいよ主流となっていくことを実感する。Insta360のスタッフは、豊かな発想力と、それを現実の機能に落とし込む技術力に富んでいると言わざるを得ない。
▲三脚穴への取付けパーツにテグスを結ぶか、直接自撮り棒を装着し、「バレットタイム」(日本ではこのように誤った読み方が定着しているが、本来はブレットタイムに近い発音)モードを選択して振り回すと、映画「」マトリックス」でネオが銃弾を避けるシーンのようなスローモーション撮影ができる。(クリックで拡大)
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▲(クリックで拡大)
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▲360度動画の中の人物をトラッキングフレームで囲むと、自動的にその人物を追いかけながら2Dビデオを生成する「スマートトラック」機能も用意されている。(クリックで拡大)
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▲iOSデバイス上で360度動画を再生しながら、あたかもそのシーンが目の前で繰り広げられているかのように視線の方向を変えたり、デジタルズームを駆使して再撮影することで2Dムービーを作れる「フリーキャプチャー」機能こそが、個人的にはこの製品の一番の魅力だ。(クリックで拡大)
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というわけで、百聞は一見にしかず。フリーキャプチャーとバレットタイム機能を駆使したサンプルムービーを制作してみたので、ぜひともご覧いただきたい。ほとんどのパートが360度VR映像からの切り出しで構成されたものだ。
▼サンプルムービー
もちろん、元が4K映像とはいえ、切り出されたビデオの解像度は落ちている。しかし、たとえば旅先や展示会などでも撮影に気を取られずに実際の風景や製品をはしっかり自分の目に焼き付け、後からじっくり見せたい被写体や撮影時には意識しなかった光景まで改めて仮想的に撮影できるという機能性は圧倒的に画期的だ。個人的には、これこそが映像制作におけるパラダイムシフトだと感じている。
今後、これにヒントを得たVR用の編集アプリなどが色々と現れると予想されるが、Insta360 Oneのセンサー情報も使用したフリーキャプチャーは操作性の点でもかなり練られており、そう簡単には追いつくことはできないものと思われる。
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