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コラム

欧州、デザイン散歩:第3回

September, 2019:循環型社会の実現に向けたデザインとは
喜夛倫子

オランダ在住のプロダクトデザイナー、喜夛倫子さんの欧州レポートをお届けします。
毎月ヨーロッパの街角を巡る、喜夛さんのデザイン散歩をお楽しみに。

イラスト
[プロフィール]
喜夛倫子(Kita Tomoko):プロダクトデザイナー。オランダ・アムステルダムを拠点に活動。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具デザイン学科卒業。Michael Young Studio、Kohler社のロンドンデザインスタジオでインターンを経験。日本のデザイン事務所で5年間、国内外の地場産業のプロジェクトなどに携わる。ロイヤルカレッジオブアートを中途退学し、2016年にT Magpie Design Management /Tomoko Kita Studioを設立。ヨーロッパを中心に美術館、教育機関、展示会でワークショップを行っている。2003年よりヨーロッパの展示会で作品を発表。Shogitoはイタリアで永久所蔵品されている。素材への興味から、応用化学の学位を持つ。



●サーキュラーエコノミーを考慮したデザイン

近年、世界各国で循環型社会の実現に向けた取り組みが加速され始め、デザイン業界においてもサーキュラーエコノミーを考慮したデザインが注目されつつあります。今後、循環型社会への移行する中で、デザインはどのように役立つことができるでしょうか。

世界でもデンマークに次いで、サーキュラーエコノミーを積極的に推進していることで知られるオランダでは、食、プラスチック、製造業、建設事業、消費財の5つの分野おいて、優先的にその循環を推進する方針を打ち出しています。その中でも、エンドユーザーからもその取り組みの効果が見えやすい「建築物」と「食」の循環とデザインについてご紹介したいと思います。

●(1)建築物

廃発電所を美術館にしたロンドンのテートモダンや、ニューヨークのチェルシーマーケットなど、古い建築物を今現在必要なものへと有効利用するコンバージョンという手法はご存知な方も多いと思います。

現在を軸にするだけではなく、何十年、何百年後も、これから来る未来に生きる人が必要な施設として使われることを想定し、原状に戻せるように設計がなされた、オランダの施設をサーキュラーエコノミーの例として2つご紹介します。

「Boekhandel Dominicanen」
13世紀の教会を再利用した書店

街の中心地にある教会の扉をくぐると、人々が思い思いに並んだ本を物色しています。所蔵約5万冊を誇るこの「教会の本屋」には年間約70万人が訪れ、オープンから10年以上経つ現在も賑わい、新たな知識との出会いの場として2019年を生きる人々の暮らしを支えています。

天井のフレスコ画を近くで見ることができる3階建ての書棚が立ち並ぶスペースをはじめ、カフェ施設、照明にいたるまで、建物を傷つけずに設置できるよう工夫がされています。いつでも元の状態に戻すことができるようになっています。特に、空中に浮いたカーブを描いた形の照明器具にデザインの工夫を見ることができます(写真1)。オランダには教会の本屋が2軒あり、それぞれの空間を活かした設計がなされています(写真2)。

「Kruisheren Hotel」
15世紀修道院を再利用したホテル

かつては女子修道院であったということに臆することなく、明るくアートに触れられる遊び心のある楽しいホテル。アートギャラリーとしての機能も兼ね備え、ホテル内にあるアート作品にはすべて値札がついていて、購入することができます。こちらも「教会の本屋」と同様に、いつでも完全に元の通り戻すことを前提に設計されています。特にエレベーターと廊下の設置方法や、空間を設けるための設計に工夫が見られます(写真3、4)。

どちらの施設においても、一見奇をてらったように見える内装や家具は、実は巧妙に計算され、必然から生まれたデザインであることが分かります。先人の生み出した空間を、現在を生きる人の暮らしに根付かせ、また次の時代へと引き継いでいくための知恵の詰まったデザインがなされています。

●(2)食

農業先進国としても知られるオランダの都市部、特にアムステルダムでは食品の安全性や食品廃棄物に対しての関心が高く、個人や民間主導のフードレスキューが盛んです。その中でも、大きな規模のものを2つご紹介します。

「Too Good To Go」
有名店の廃棄食材をレスキューするアプリケーション

お気に入りのレストランやパン屋さんなどを登録しオーダーしておくと、1日の終わりにマジックボックスと名付けられた袋を閉店前に受け取ることができます。その袋には何が入っているかの詳細は事前に知ることはできませんが、自分の好きなお店の食べ物が無料でもらえるというアプリです。

「Taste Before you Waste」
フードレスキューのコミュニティ

無駄な食材を生み出さないことを目的とした食通たちのコミュニティ。毎週250kgの廃棄食材をボランティアたちがレスキューし、Dokhuis Galleryでの「ゴミのない水曜日の夕ご飯」や「フードサイクルマーケット」といったイベントで募金制で提供し、定期的に勉強会などを開いています。

オランダでは、干拓をしていた時代に培われた国民気質「ポルダーモデル」があるため、目的のために階級を超えて人々が平等に協力をしやすく、個人でも主体性を持って自身の願うより良い暮らしを実現させる機会に恵まれているように思います。

日本ではサービスを提供する人と享受する人の立場が強く分かれているため、フードレスキューにおいては、より対等な関係で協力できるようにするための工夫が必要となるかもしれません。

これから、世界がサーキュラーエコノミーへと移行する中で、使い方やデザインの意図が分かりやすく、物理的にも使いやすい、よりシンプルなソリューションを持ったプロダクトが求められるようになると考えられます。

海外にいると、日本ならではのさりげない思いやりあるデザインディテールに、改めて感服する機会が多くあります。日本には、ミニマルな配慮がなされたデザインを得意とされる方も多いのではないでしょうか。日本のデザイナーが、サーキュラーエコノミーのための優れたデザインを生み、より良い未来へと導いてくれるように思います。

この記事に関連する他の写真は、下記のリンクからご覧ください。
https://www.tomokokita.com/column-images

●Reference
Boekhandel Dominicanen:
https://www.libris.nl/dominicanen

Kruisherenhotel:
https://www.oostwegelcollection.nl/kruisherenhotel-maastricht/

Too Good To Go
https://toogoodtogo.nl/nl

Taste Before you Waste
http://amsterdam.tastebeforeyouwaste.org/


 


▲写真1:「Boekhandel Dominicanen」の宙に浮いたような照明。(クリックで拡大)


▲写真2:「Waanders In de Broeren」別の教会の本屋。(クリックで拡大)



▲写真3:ホテルの廊下。(クリックで拡大)



▲写真4:ホテルの2階建の空間。(クリックで拡大)





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