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コラム

欧州、デザイン散歩

July, 2019:ミルクの釉薬の器たち「Care for Milk」
喜夛倫子

今月からオランダ在住のプロダクトデザイナー、喜夛倫子さんの欧州レポートをお届けします。
毎月ヨーロッパの街角を巡る、喜夛さんのデザイン散歩をお楽しみに。

イラスト
[プロフィール]
喜夛倫子(Kita Tomoko):プロダクトデザイナー。オランダ・アムステルダムを拠点に活動。イギリスのキングストン大学プロダクト&家具デザイン学科卒業。Michael Young Studio、Kohler社のロンドンデザインスタジオでインターンを経験。日本のデザイン事務所で5年間、国内外の地場産業のプロジェクトなどに携わる。ロイヤルカレッジオブアートを中途退学し、2016年にT Magpie Design Management /Tomoko Kita Studioを設立。ヨーロッパを中心に美術館、教育機関、展示会でワークショップを行っている。2003年よりヨーロッパの展示会で作品を発表。Shogitoはイタリアで永久所蔵品されている。素材への興味から、応用化学の学位を持つ。


はじめまして。アムステルダムでDesignとDesign Managementの会社を営んでおります、きたともこと申します。

機能、造形美、環境への配慮、そしてコストといったさまざまな要素のバランスを取りながら、その時々の世相や風習などに反応して生まれる「デザイン」。所変われば、生まれるものを変わります。欧州の人々の暮らしの中で新しく生み出された「デザイン」をご紹介できればと思います。

●Care for Milk

陶磁器の産地が多い日本では、料理に合わせて、各地特有の異なる趣を持つ美しい焼き物から器を選び楽しむという文化があります。海外に目を向けてみると、気候や文化の違いから、別の観点から発展した特有の技術があります。今回は、先人の知恵を発展させ、誕生した器「Care for Milk」をご紹介いたします。

パンのように香ばしい色味をした器たち(写真1、2)。この美味しそうな風合いは、ミルクの釉薬により生み出されています。デザイナーのエカテリーナ・セミョノワ(Ekaterina Semenova)氏が、牛乳をキャラメル化して釉薬として使えないか研究を重ね、ミルクグレーズのシリーズ「Care for Milk」は誕生しました。

なぜミルクを釉薬に用いるという発想に至ったのでしょうか。また、このミルクグレーズ特有の風合いや色、グラデーションはどのようにして生まれたのか、セミョノワ氏にお話を伺いました。

時代は遡り、ローマ時代。セミョノワ氏の生まれ故郷では、セラミックのコーティング剤としてミルクを使っていたという歴史があるそうです。現在では使われなくなった、このコーティング技術を知る職人の方に、この先人の知恵を学び、ミルクを釉薬として使えないか研究をはじめました。セミョノワ氏は、ミルクの種類、配合、釜の温度を変え研究を重ね、環境にやさしくグラデーションの美しい、このミルクグレージングの風合いを出すことに成功しました。脂肪分や糖分など、ミルクの成分の比率によって、光沢や色の濃さ、テクスチャーのバリエーションを生み出しています。(写真3)

「Care for Milk」は、2017年にオランダの「New Material Award」で受賞し、その美しさだけではなく、新しいマテリアルとして有用性も評価されています。

●About the features

環境に配慮した器としての観点から、特筆するべき特徴は3つあります。

○焼いた後に釉薬のかけ直しの効くフレキシブルさ
釉薬のかかり具合や色味は、化学反応で決まります。その日の天候などからも影響を受けるため、釜を開けるまで仕上がりは誰も分からないものであることは広く知られています。自然によって左右される製品であるということが醍醐味の1つである一方で、コントロールが難しいためB級品を生み出す原因ともなります。

ミルクグレーズでは、ミルクを高温で焼ききり、その上にミルクをかけて焼き直すことができます。後から、何度でも思うような風合いができるまで釉薬のかかり具合を調節できるため、同じ生地を使って納得のいくテクスチャーや濃淡を表現することができます。また、この特性により、生地の廃棄率の削減を見込むことができます。

○安全性と取り扱いやすさ
釉薬の中には、重金属などを含み、高温で処理されるまで有毒なものもあります。このような釉薬は、熟練した技術者でないと、保管から製造、廃棄まで安全管理が難しことでも知られています。ミルクグレーズは、食材である牛乳を釉薬として使っているため、焼きが甘い製品から有害物 質が染み出すなどの問題は起こり得ず、安心して使うことができます。

○低エネルギー&低コスト
ミルクのため焼成温度が低く、低温で色味を出せるため、窯のエネルギーの消費量が少なくて済むというメリットがあります。環境にも優しく、経済的な釉薬であると言えます。

About the designer

Ekaterina Semenova(エカテリーナ・セミョノワ)オランダのアップカミングデザイナーの1人。「色」と「テクスチャー」のデザインに通じており、特にセラミックとテキスタイルなどのデザインプロジェクトを得意としている。マテリアルのプロジェクトをオランダの公的機関と進めるなど、地場産業発展のためのプロジェクトなどにも活躍の場を広げている。ロシア出身。

Where to see

2016年にアイントホーヘンアカデミーの卒業制作として発表されたこの「Care for Milk」は、翌年にオランダの「New Material Award」を受賞。2019年の「Salone del Mobile」ではALCOVAで展示されました。またVitra museumでの展示などが予定されています。

セミョノワ氏に関するお問い合わせ、日本での展示予定につきましては、下記リンクをご覧ください。
https://www.tmagpie.com/


 


▲「Care for Milk」。(クリックで拡大)


▲「Care for Milk」。(クリックで拡大)



▲ミルクの成分の比率によって、光沢や色の濃さ、テクスチャーのバリエーションが広がる。(クリックで拡大)




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