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コラム

建築デザインの素 第40回
赤ちゃんパンダ「シャンシャン」が教えてくれたこと

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



シャンシャンがかわいい!
https://youtu.be/ppGUl5cQ8Ks

言わずと知れた、上野動物園で6月に生まれたパンダの赤ちゃん。実は僕も、誕生後メディアから流れる愛くるしい姿を目にして、12月19日からの一般公開を心待ちにしている1人なのです(笑)。

■パンダにハマる

赤ちゃんに限らず、パンダはぬいぐるみのようで、ホントに可愛い。僕は、動物好きでもなければ、パンダに特別な愛情を感じているわけでもないのだが、実は2年ほど前に上野動物園へパンダを見に行ってハマってしまった。

そもそも僕のパンダに対する印象といったら、映像や写真で見た時には確かに愛くるしいのだが、実際に動物園に出かけてみるとパンダ舎の奥でほとんど動かず、寝てばかりいる退屈な生き物といったものだった。それでも2年前に「パンダを見に行ってみよう!」と思ったのは、確かこんな新聞記事を読んだからだ。その記事によると、上野のパンダが寝てばかりいたのは、食べやすい餌をたっぷりと与えていたためにパンダが「食っちゃ寝」状態になっていたからだという。ところが最近は飼育方法を変え、消化しづらい餌を少し少なめに与える方向へと切り替えたためにパンダがアクティブになり、今では動き回る様子を見ることができるという。

■「パンダ=カワイイ!」の図式

2015年の12月の休日、とにかくパンダ舎に行ってみた。パンダは期待通り動いていた。屋外の運動場に出て観客に向かって足を投げ出すように、まさにテディベアのようにお座りして、前足で竹をつかみむしゃむしゃと食べていた(
写真1)。カ!ワ!イ!イ!

特徴ある白黒の塗分け、特に目の周りをグルリと囲む黒い斑は、遺伝と淘汰の結果であろうが、パンダを実際の顔つき以上に可愛く見せている(女性のメイクのよう?)。また、竹を長時間食べているのは、そのずんぐりとした4頭身の体型に収まっている胃腸が竹を消化吸収するためにはいささか短く、このためパンダは1日の大半竹を食べ続ける必要があるからだという。

さらには、前足で人間のように器用に竹をつかんでいる仕草がかわいらしさを激増しているのだが、実はこの前足を手のように使って物をつかむという動作は、クマの仲間の中でもパンダだけに可能なんだそうだ。加えて言えば、こんなにのんびりした動物が絶滅しないで生き残れたのは、天敵が存在しない恵まれた環境の賜物にちがいない。ジャイアントパンダのカワイイ仕草に癒されつつ、この類まれなるかわいい「種」を生み出し存在させしめている自然と、環境と、偶然の織り成す「デザイン」に感動した。僕の中で、「パンダ=カワイイ!」の図式が出来上がり、僕はパンダにハマった。

■「ユアンメン」は可愛くない

こんな図式が脳内に出来上がっているものだから、今回の誕生のニュースを聞いた瞬間に、シャンシャンに会いに行きたくなってしまった。混乱が予想されるため、事前予約制で見学を受け付けるといことになったらしいが、なんと見学申し込みの受付開始からたった2日で、16万組を超える申し込みがあったという。大人気だ!

図式が形づくられる経緯やその図式の存在感の大きさは人それぞれであろうが、多くの日本人が「パンダ=カワイイ!」の図式を頭の中に持っているに違いない。パンダは、可愛いいのが当たり前の存在なのだ。シャンシャン人気は、そんな図式に支えられているのだろう、分析的にシャンシャンとらえていた。

そんな時、たまたま、フランスでもパンダの赤ちゃん「ユアンメン」が生まれたとの報道を目にした。ところがどうだ、こちらはちっとも可愛くない!(笑)
http://www.bbc.com/japanese/video-42233349

目の周りの黒縁も、なんだか意地悪そうに見えるし、だいたい毛並みが荒々しくリーゼントみたいで、全然むくむくしてない。可愛くない! 動画を見ても、命名に来た大統領夫人に「ガオー」と吠えたりしていて、まったく可愛くない! 動きにしても、シャンシャンのそれに比べると機敏で、同贔屓目に見ても可愛くない!(笑。もっともチョイ悪好みの方々には、ユアンメンの方が魅力的かもしれないが)。

あれっ、ひょっとすると、「パンダ=カワイイ!」という図式は、上野公園での極めて狭い体験から組みあがってしまった固定観念、偏見、レッテルといった類のものであるのかもしれない。すべてのパンダが可愛いわけじゃなく、実は個体差があるのだ。シャンシャンはカワイクって、ユアンメンは可愛くなくて、実はパンダは必ずしもカワイイわけじゃない! といった具合に、事実は多様であり複雑で掴みどころがない。図式のように、単純にはいかないのだ。


■「組織事務所のデザイン=没個性的でつまらない」の図式

面白いのは、事実が複雑でつかみどころがないものであったとしても、いやむしろつかみどころがないからこそ、人間は物事を頭の中にある図式で判断を下したがり、それ故に頭の中に図式をつくりたがる生き物なんじゃないかということだ。

そして、図式は「認識」につながる。1つの強烈な存在、例えばシャンシャンの存在がつくりだす「パンダはカワイイ!」という図式、固定観念、偏見、レッテルといったものの積み重ねが、必ずしも真実ではないにもかかわらず、人間の認識に大きく作用しているのではなかろうか。

僕ら組織事務所に所属する建築家は、「組織事務所のデザイン=没個性的でつまらない」といった図式を、アトリエ派建築家の固定概念であり、偏見であり、誤ったレッテルであるとしばしば文句をあげつらう。しかしシャンシャンが教えてくれるのは、人間の認識には、正しいとか正しくないという区別はなく、認識が形成され広く共有されているか否かという点が重要であるということだろう。

もし「組織事務所のデザイン=没個性的でつまらない」という認識が広く世間で共有されているとしたら、それはその図式を打ち破り新たな図式を描き出すに足る「組織事務所のデザイン=個性的で面白い」デザインを、組織事務所がインパクトをもって社会に提示できていないからに他ならないだろう。シャンシャンのカワイイしぐさを見ながら、こんなことを思った。



イラスト
▲写真1:上野公園のパンダ。シャンシャン誕生前には、「パンダはカワイイ!」という図式の形成に大きな役割を果たしていた。実は、中国は歴代、気が優しくて可愛いパンダを日本には特別に送り出してくれていたのかもしれない。(クリックで拡大)


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