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コラム

建築デザインの素 第27回
「オリンピック応援納税制度」なんて、どうですか?

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、常務執行役員、設計部門副統括。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



オリンピックを見ながら考えてしまった。

何のために、誰のために、オリンピックは開催され、施設はつくられるのだろうか? それが見えないことが、オリンピックの問題点ではなかろうか?

■オリンピックは赤字覚悟?

少々乱暴な試算をしてみる。

新国立競技場を仮に1,400億円、8万人収容として、会期をパラリンピックを含めて30日とすると、

1,400億円÷(8万人×30日)=58,000円/人日

1,400億円のオリンピックスタジアムの建設費を、純粋に入場料だけで賄おうとすれば、1人当たり58,000円の入場料を取れば成立することになる。

ちなみに、リオのオリンピックでもっとも入場チケットが高いは、メインスタジアムでの入場式で、最高額が21万円ほど、最低額が1万円ほどらしい。単純計算をすれば、平均入場料は、1人当たり11万円てな計算になるから、入場料の半分は施設代に、残りの半分はオリンピックの運営費に回せるっていうことになる。「オリンピックゲームを生で見る」という行為の市場価値に対して、1,400億円のスタジアムなら、たとえ仮設でオリンピックだけのだけのために建設したとしても、そうベラボーな値段とは言えない気もする。

ちなみに、東京オリンピック誘致時点での計画書(現時点では数倍に膨れ上がっているのでしょうが)では、チケットの売り上げ代の想定は800億円弱であるが、IOCが主催者東京に支払うテレビ放映料が同じく800億円、さらにスポンサーシップ代が1,100億円ほどに上り、東京オリンピックによる総収入は、約3,400億円と計上されていた。一方のオリンピックの開催による経費は競技運営にかかわる直接的な経費だけで約3,400億円と計上されていた。問題は、競技会場や選手村、そこへ至るインフラの整備などの間接的経費がそれを上回る4,900億円と計上されていることだ。オリンピックに必要な施設の建設費まで含めると、オリンピックは赤字覚悟で開催するイベントってことになる。

■オリンピック景気は誰のもの?

では、主催者である東京都は、何を期待してこの間接経費を支出しているかといえば、オリンピックによる経済効果に尽きると思う。もちろん、オリンピックのために建設したスポーツ施設の運用による事後の収入も期待できるが、これらは施設の維持管理費とトントンがいいところだろう。目玉は、来日観光客の増大や、施設建設による内需の拡大などによる「オリンピック景気」だ。

しかしこのオリンピック景気がまた曲者である。数兆円ともいわれる間接的効果がオリンピックの開催前後に期待できるといわれていて、その根拠としてオリンピックの開催に伴い開催国のGDPが平均10%程度上昇しているとのデータが示されたり、北京オリンピックでは、開催に3兆4,000億円の経費をかけ、直接的な経済効果だけでも4兆7,000億円に達したとの報道がなされたりしている。

その一方で、オリンピック開催後に経済破綻に至ったギリシャなどの例もある。オリンピックの経済効果は確実に約束されたものではなく、水物。バクチとまでは言わないものの、かなりのリスクを伴う投資であることは間違いなさそうだ。

さらに言えば、投資をするものとそこからのリターンを受けるものの関係が不明確なのも気になるところ。ハイリスクである以上、投資には自由な意思による選択が尊重され、成功時にはリスクを負ったものへのリターンが保障され、その代わりに不成功時にはリターンを期待して選択したものがリスクを担うことが必要。今のオリンピックのシステムでは、選択の自由がなく税金から支出が成されリスクを負わされながらも、成功時に生まれたリターンが必ずしも納税者に均等に戻ることがない。リターンの行き先が曖昧ではなかろうか。

■オリンピックにまつわるお金の流れをデザインする

新国立競技場が1,400億円というとベラボーな話に聞こえるのは、金額の大小以前に、入場料が一銭も建設費に充てられることなく、開催を誘致した都市が全額を負担しなきゃならないっていう、なんだかインチキ臭く見えてしまう構図にありそうだ。さらに大きいのは、それがオリンピック景気を期待した投資だとしても、投資に乗るか反るかに関して個々の納税者の自由な選択の意思が尊重されていないこと。

さらに、オリンピック景気がリターンを生んだとしても、そのリターンがどこに還元されているのかが見えないことにあるのではなかろうか? 経済に疎い、能天気なデザイナーとしては、オリンピックへの投資とリターンの仕組みの見える化、すなわち「オリンピックにまつわるお金の流れのデザイン」こそが必要ではなかろうか?という思いが募る。

たとえば、最近大人気の「ふるさと納税」のシステムに倣えば、

1. まず主催者である地方自治体が、オリンピックに必要な経費と期待リターンを明示して、それに賛同する個人や企業から資金を先行税金として集める
2. リターンが出ればオリンピック後の税金の減免や配当を与える仕組みをデザインする
3. リスクを理解したうえで、オリンピックを応援する個人が、参加を目指すアスリートが、オリンピックにより莫大なビジネスが生まれる企業が、それぞれの思いでリスクを負担する

こうした、オリンピックにまつわるお金の流れを見える化し、オリンピックを支え応援する仕組み、「オリンピック応援納税制度」がデザインできないものだろうか。

ICTが進み、マイナンバー制度が生まれ、ふるさと納税やクラウドファンディングなどが実際に機能している状況を見ると、オリンピックを本当に支えたい人が支えそこで生まれたリターンを分かち合えるシステム、オリンピックに反対や傍観したい人はそこに巻き込まれず静観できる仕組みのデザインは、それほど難しくなく実現できそうな気もする(笑)。

オリンピックは、アスリートにとっては「参加することに意義がある」わけだが、その他の人々にとっては「応援したい人が応援する」ものとしなければならない。そんな気がしてきた。



 

イラスト
▲1964年の東京オリンピックのために造られた代々木のオリンピックプール。日本の近代建築の金字塔ともいえる傑作である。オリンピックにまつわるお金の流れの見えるかが図られれば、施設の建設費までがオリンピックが生む経済効果の中で負担できそうな気もする。お金の流れの透明化が図れれば、オリンピックは建築文化のオリンピックともなりえる可能性がありそうな気もするのだが。(クリックで拡大)



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