pdweb
無題ドキュメント スペシャル
インタビュー
コラム
レビュー
事例
テクニック
ニュース

無題ドキュメント データ/リンク
編集後記
お問い合わせ

旧pdweb

ProCameraman.jp

ご利用について
広告掲載のご案内
プライバシーについて
会社概要
コラム

建築デザインの素 第24回
ありふれた素材を使って、環境にやさしい建築をつくる

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。


■チソカツ


「味噌カツ」の誤植と思われたかもしれないが、これで正しい。「地域素材利活用協会」という少々長い一般社団法人の名前の頭文字を取って「チソカツ」。地域に眠っている素材に目を向け、掘り起こし、建築へと利活用することで、その地域に仕事をもたらし、活性化していこうというのが設立の趣旨。

当代きっての素材の使い手であるアトリエ天工人の山下保博さんが中心となって立ち上げ、友達であり自称素材好きの僕も理事として参加させていただいている。

■素材感

僕に限らず、多くの建築家は「素材感」を大切にする。白い抽象的な空間だって、徹底的に素材感を消し去ろうという行為と捉えれば、それもまた素材感へのこだわりとも言える。だから、素材感を表現するにしろしないにしろ、素材感は建築デザインにおける非常に根本的なエレメントであることに疑いはない。素材感は基本的かつ重要な「建築デザインの素」なのだ。

■そこいらにあるもの

ここ数年の僕自身の素材へのこだわりは、「そこいらにあるもの」に目を向けることといえそうだ。そう感じたのは、地域素材利活用協会の理事たちが総動員でまとめた「チソカツの術」の編集作業の中だった(図1)。

環境親和型の建築をつくることは、現代の建築家にとっては避けることができない大きなテーマである。しかしながら、エンジニアではない僕にとってはエネルギーの消費を抑えるいわゆる省エネ手法が、なかなか上手く建築にできない時期があった。しかし、そこいらにある素材、即ち建築を取り囲む環境を素材と捉え、リスペクトし、適材適所で使うことが、環境建築をデザインする手がかりだと気が付いたときに、上手く歯車がかみ合いだした。僕にとっての環境建築とは、そこいらにある素材を、適材適所で建築の中に組み込むことと同義になった。

■そこいらにある材木、雨水、湖水を使う

そんなわけで、木材会館では日本の住宅建築ではあり触れていて、比較的安い、伝統的な尺貫法材木を、大型建築の中でも木材が生かせる部分で使いつつ、建築における二酸化炭素の固定を目指した(図2)。

NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)では、日本に雨が多いことを利用して、雨水を建物の外装から蒸発させることで発生する気化熱を使って、建物の表面温度を10度以上も下げてしまうことで、ヒートアイランド現象を抑制する「バイオスキン」という環境建築の仕組みを開発した(図3)。

中禅寺湖畔に建つゲストハウス「On the water」では、湖水面からの膨大な放射熱と、湖上に流れる冷えた風を取り入れることで真夏でも冷房なしで環境が生み出す涼感を味わうことを目指したデザインを試みた(図4)。

そこいらにある素材を取り上げ、適材適所で使うことで、僕は環境建築をつくろうと試みてきた。

■あらわし

材木は別として、雨水も湖水も、実は建築を直接形作っている素材ではない。コンクリートや鉄骨、そしてガラスなど建築を直接作る素材が必要になる。そこいらにある素材で環境建築をつくろうという立場の僕にとっては、構造体もできるだけ具理的でありふれた素材を使いたくなるのは、当然の流れといえる。そこいらにある構造部材を、包み隠さず表現することが、僕が環境建築をつくる上で必須ともいえる取り組みとなってきた。

これについてはありがたいことに、日本には構造部材をそのまま露出させ表現する「あらわし」の伝統があったから、さほど苦労することなくクライアントの理解は得られてきた。

一方で建物内部からのエネルギーロスを考慮すると、現代建築は構造体や外壁面に断熱層を設けた高断熱建築が主流となり、あらわしの建築が環境建築となり得るのは都合よく条件が整ったときに限られてしまう。何か新しい発想が必要そうだ。

■石膏ボード

こう書いて来て気が付いたのだが、現代建築の内装においては石膏ボードと、その裏面にある断熱材が最も多く使われている。「そこいらにある」素材の代表選手にもかかわらず、先入観からか、これらはあらわしで露出して見せられる素材ではないと決めつけ、真摯に取り組んでこなかったことに気が付いた。

どちらも仕上げとはいえ、断熱性能や耐火性能を担っている建築を成立させる必要不可欠な素材であるわけだから、「そこいらにある」素材を使うことで環境建築をつくるスタンスを取るならば、断熱材や石膏ボードを建築を構成する必要不可欠な素材であると位置付け、取り込むことがあるべき姿勢に思えてきた(笑)。

あらわしに代わる、表面を覆う素材に着目した環境建築を考えなきゃ。



 

イラスト
▲図1:「チソカツ(地域素材利活用)の術: みすてられたもの そこいらにあるもの うつろいゆくもの」山下保博、山梨知彦、水野吉樹(共著)、鹿島出版会。(クリックで拡大)


イラスト
▲図2:木製のファサードのクローズアップ。木材会館。(クリックで拡大)


イラスト
▲図3:陶器製のファサードのクローズアップ(バイオスキン):NBF大崎ビル(ソニーシティ大崎)。(クリックで拡大)

イラスト
▲図4:中庭から湖水を望む。On the water。(クリックで拡大)

Copyright (c)2007 colors ltd. All rights reserved