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コラム

建築デザインの素 第22回
建築のデザインは、植物の成長過程へと近づくのか?

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



■Googleが建築のデザインを始める?

Googleが業績を発表した(正確に言えばAlphbetというべきであるが)。ついに時価総額69兆円となりアップルを超え、世界で一番高額な会社となったことが話題になっている。この事態は、モノつくりの時代からコトつくりの時代へのパラダイムシフトの象徴と位置付けられているようだ。しかし儲けた金は、必ずしもコトづくりに限らず、モノづくりにも投資されている。メインのIT関連ビジネスで設けた資金やAI(人工知能)に関するノウハウを、他分野の事業開拓に積極的に投入していることが興味深い。

よく知られたものとしては、自動車の自動操縦技術への進出があるが、僕ら建築デザインに関わるものとしては、スマート住宅事業や太陽光発電事業(Project Sunroof)などがある。これら建築デザインに直結する分野への進出は気になるところ。中でも「FLUX」という、建築の自動設計技術には興味津々。

そういっちゃなんですが、建築のデザインは、IT産業に比べれば全然もうからない仕事だ。Googleが興味を持つなんて意外な気もするが、Googleは建築のデザインに大きな意味を見出しているのかもしれない。Googleの自動設計を引っ提げてのIT分野から建築分野への参入を脅威とみなす建築家は多い。しかし僕自身は、高度経済成長期以後、斜陽続きであった建築のデザインという仕事に再びスポットが当てられ、まともな収益を上げられるビジネスへと変身できる切っ掛けにも見える気もして、歓迎すべき傾向だと捉えている(実際にはFLUXは、独立したベンチャー企業としてGoogleから切り離されているので、その将来性に対するGoogleの評価は、全く未知数ではあるのだが)。

■FLUXの「種」

FLUXについては、全貌が明らかではないのでさまざまな憶測が飛んでいるが、個人的には「seeds」=「種」という考え方に興味を魅かれている。

FLUXでは、コンピュータ上のバーチャルな空間に築かれた敷地に、「種」を蒔くことで、その種が敷地の環境的な特徴や計画与件に反応して、敷地条件や計画与件に最適化された建築へと育っていくというコンセプトが根底に流れているようだ。FLUXは、植物の成長過程のアナロジーから、建築を自動設計しようとしている。

■植物のように、環境に即した建築を育てる

確かに、動物の個体差に比べ、植物の多様性は際立っているように見える。同一の種別であったとしても、動物の方は環境に関わらずDNAに刻まれた設計図に向かって成長を遂げていくように見えるが、植物の方はDNAに刻まれたアルゴリズムを元に、環境に即してさまざまな形状に変化して成長を遂げているようにも見える。

かつて建築は、建築家の感性が描き出した完成形にどれだけ肉迫するかが完成度の尺度であった。しかし環境の時代となり、また建築に要求される諸条件が多様でかつ複雑になりつつある現在では、コンピュータの助けを借りて、諸条件や環境に即した建築を、植物を育てるように設計をする方法論は、新しい建築デザインの方向といえるかもしれない。

シンガポールの植物園を訪れた際に、目的としていた建築物よりも、内部に展示されていた植物の多様さが、より自由で環境に対してフレキシブルな建築の姿を暗示しているように感じたことを思い出した。

建築は、植物へと近づきつつあるのかもしれない。


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▲写真1~5:シンガポールの植物園で出合った植物の一部。見ていて飽きることがない。環境のわずかな変化が、植物にこれだけの変化を与えたことを思うと、建築は植物に近づくことで、デザインの可能性は大きく広がるかもしれない。(クリックで拡大)

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▲写真2:(クリックで拡大)

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▲写真3:(クリックで拡大)

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▲写真4:(クリックで拡大)

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▲写真5:(クリックで拡大)

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▲写真6:シンガポールの植物園の外観(クリックで拡大)






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