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コラム

建築デザインの素 第15回
木材を適材適所で使う

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



■適材適所

適材適所という言葉がある。

木材を建築に用いる際、デザイナーはとかく分かりやすさ、コンセプト、シンプルさなどを重視して単一種類の材料のみで造りたがる。一方、木材が建築をつくる主要な材料であった時代には、自然素材ゆえに無理が利かないので、建築の中で使われる部位の特性に合わせて、使うべき樹種を吟味していたと言う。

例えば曲げがかかる部位では粘りのある材種を用い、軽さを重視する場では針葉樹を、強度や堅さを重視する部位では広葉樹を、腐りやすい部位には油分を多く含んだ樹種を吟味したという。この使う部位に合わせて最適の木材を選ぶという考え方が、適材適所の語源だそうだ。今では人材の適切な配置に使われることが多いのだが、元々は建築用語であったのだ。

■木材の適所

もちろん現代では木材のみで建築をつくることは難しくなっていて、鉄骨やコンクリートをはじめとした非常に広範囲な材料が使われていることはご承知の通りだ。でもこの適材適所というコンセブトは、現代建築においても極めて重要なものなんじゃないかなと思っている。いや建築のみならず、この適材適所の考え方は、ほとんどのモノ作りにおいて重要かつ根源的なものではなかろうか。

さて2009年に「都市建築における木材の復権」を掲げ、木材会館を世に問うてみた僕としては、昨今の建築界における木材利用の高まりは本当に嬉しい。木材の復権は近づいているように見える。一方で、ここで僕ら建築家が強引な木材の使い方をしてしまうと、木材のデメリットが強調され、流れに水を差すことにもなりかねない。

かつてはどの木材を建築のどこに使うかが適材適所のテーマ出会ったとしたら、現代ではどういった種類の建築に木材を使うと良いのか? 建築の中のどの部分に木材を使うべきなのか?

といったように、適材適所の考えは拡張し始めている。現代建築では「木材の適所」を見つけ出すことが1つの大きな課題になっている。

■3つの適所

僕自身は、木材の適所として以下の3つを考えている。

1つ目は、以前もこの場で「オリンピックに木を使おう!」として書いたが、今話題の中心となっている新国立競技場での木材利用だ。オリンピックで適材適所の木材利用が内外に示すことは重要なことではなかろうかと僕は考えている。

2つ目はいわゆるペンシルビル建設での木材利用。2時間耐火木構造が登場したことにより、比較的狭い敷地に建設されるペンシルビルには木構造が向いているようにも思われる。鉄骨やRC造よりも耐震性に優れた木造10階建てが、同等なコストで実現できるアイデアも見つかった。木構造がペンシルビルの適材適所な構造として位置づけることができれば、ペンシルビルのデザインにぐっと幅を与えることができるだろう。

3つ目は、大型ビルの最上階の木造化だ。ビルの最上階は、役員会など特殊な用途が載せられることが多く、かつ屋根は原則として自分自身の荷重が支持できればよいので、軽くて日本人好みの木材を持ちいる場としては最適と言える。軽いから既存のビルの改修もできるかもしれない。もしビルの最上階が木造にできるならば、日本のスカイラインは激変すること間違いなし。日本らしい都市景観が、表層的なデザインではなく、建物の骨格という本質的なものから誘導できる。考えただけでもワクワクしてくる。

唯一の問題は、いかにしてクライアントを動機付けるかということに尽きる。しかしもし、建物最上階を木造にしたら、その部分の床面積はボーナスとしてもらえる「木造インセンティブ制度」みたいなものが創設できれば、民間の活力と木材需要の創出、そして木材によって生み出される日本らしい都市景観とを結びつけることができそうだ。

建築デザインにおける素材の適材適所を考えると、直接形を生み出すことから、制度設計へと広がり始めているように感じている。僕らはそんな時代いるのだろう。

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▲写真1:東京のスカイライン。特徴のあるスカイラインは描き出されていない。(クリックで拡大)

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▲写真2:京都のスカイライン。かつては多くの木造建築が盗聴のあるスカイラインを形成していた古都京都。現在では、ビル建築が点在する木造建築を覆い隠し、東京とさして変わり映えのしないスカイラインが広がっている。(クリックで拡大)

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▲写真3:公共の低層建築においては木材の利用が進み始めたが、都心部のスカイラインに影響を与えるには至っていない。(クリックで拡大)

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▲写真4:伝統的な街並みの中で、木造建築が生み出す、リーゾナブルなスカイライン宮島)。(クリックで拡大)

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▲写真5:東京においても、皇居周りにおいては、城郭建築の名残が、特徴的で日本的なスカイラインを生み出している。(クリックで拡大)

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▲写真6:シンガポールの特徴的なスカイラインの1つ、マリーナベイサンズ。このスカイラインが木造で構成されていたらと想像すると…(クリックで拡大)

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▲写真7:新宿副都心のスカイライン。各ビルの最上階に木材建築がトッピングされると、そのようなスカイラインが形成されるのだろうか? 想像をめぐらすだけで楽しい。(クリックで拡大)


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