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コラム

建築デザインの素 第11回
大型建築の外観にこだわる:1

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。



ザハ・ハディド女史がデザインした新国立競技場は、まだ完成してもいないのに、2014年の日本で最も注目を集める結果となった。その最大の理由と言えば、ユニークな外観にあることは間違いない。

建築と言えば、僕ら専門家はまず「空間」を造ることを頭に浮かべがちであるが、一般にはまずその外観が興味の対象となる。いや、建築家といえども、外観は空間と並んで大きなテーマであることに間違いはない。そんなわけで、今回から3回にわたっては、大型建築の外観における日本人建築家としての「こだわり」について書いてみたいと思う。

■日本の現代建築の外観上の特徴

現代建築の外観デザインにおいて、一般的にアメリカやヨーロッパの建築家は、またアジアにおいても中国や韓国の建築家は、いわゆるアイコニックな「形態」を重視する傾向が強い。一方で日本の建築家が提示するファサードは、形態的には印象が薄い提案をする傾向が強い。この特徴は、安藤忠雄やSANAAといった日本人スター建築家の作品を見ても明らかであるし、日本の伝統的建築物を眺めてみても同様な傾向にある。

ファサードを形態から捉えないアプローチが日本人建築家にとって自然であるのは、そもそも日本建築にとってファサードとは、全体から独立してかたちを与えることができないともの認識されているからだろう。日本人建築家にとって、ファサードとは、建築の内部空間と外部環境との交錯の場であり、さらには構造体や設備システムから切り離しては存在しえない、地理的、気候的そして文化的要因が複雑に絡み合いの中に生まれるものなのである。

ファサードとは、建築家が自立した形態を与えるものである以前に、建築が成立している諸条件から「生成的」に生み出されるべきものとの捉えられているわけだ。現代建築においても、多くの日本人建築家はこうした考え方からか、建築のファサードを形態としてつくりたがらないのかもしれない。

■5つのボキャブラリー

ここでは、こうした日本的なファサードデザインを考える上で、重要な5つのボキャブラリーを紹介したい。とはいえ、これは通説でも、ましてや学説でもなく、僕自身がそう感じているだけのことではあるのだが。

1つ目は、「内外の連続」である。四季を通じて気候がマイルドな日本では、ファサードは内外を分かつ境界ではなく、むしろ内外をつなぐインターフェイスとして捉えられている。「縁側」はその典型であり、現代の日本の建築家は、いかにして現代の建築を大型のビル建築の中で内外を連続できるかを模索しているようだ(写真1

2つ目は、「状況に合わせた変化」である。木造と地震の伝統の中で育まれてきた日本の建築は、基本的には線材の柱と梁によって構成された直交フレームであり、外装も内部の間仕切りも、いわゆる建具であり、壁の概念は希薄である。季節や時間に合わせてファサードを形成している建具は自由に開閉され、変化し、内外の接続関係を変化させる。この状況に合わせた変化を、我々日本の建築家は現代のファサードの中にも求めている(写真2)。

3つ目は、「多目的性」である。例えば「縁側」は、内外を物理的につなぐインターフェイスであるのみならず、人が腰を掛けるためのベンチともなっている。さらには背面の廊下と一体となり、一種のダブルスキンを形成している。冬には、廊下の外に面する建具と、部屋内に面する建具の両方を閉めることでダブルスキンとなり、室内のわずかな熱を逃さぬようにする(写真3)。

一方で、夏には両方の建具を開放して通風を取り、廊下の上に大きくかぶさる庇で夏の高い角度から降り注ぐ日差しをカットする。このように、外装が内外の境界としてだけではなく、動線としても、家具としても多目的な役割を同時にはたすことが日本的な美学なのである。日本の建築家は、大型建築においてもこの美学の踏襲を目指している。

4つ目は、「あらわし」である。日本の伝統建築は基本的に、柱、梁、建具で構成されているためか、これら基本的な構成要素を仕上げで隠ぺいせず、なるべくそのままあらわし、デザイン要素とすることが日本的建築の基本となっている。これを「あらわし」と呼んでいる。このあらわしの思想は、現代でも日本人に強い影響を与えていて、日本の建築家は構造体を隠蔽する外装仕上げ材、いわゆるクラッディングに対して潜在的な嫌悪を持っている。環境の立場から必要な温熱性能を保ちつつ、可能な限り柱や梁といった構造体と建具だけで、それらをあらわしの状態で用いることで、建築の外装を必要最小限のもので構成することは、日本人建築家の基本的な思想なのだ。

5つ目は、「数寄」である。もともとは16世紀末から17世紀初頭にかけての茶室が成立する時期の複雑な美意識を指す言葉であり、これまた日本人にとって、その美学の根底を形成する概念の1つである。少々乱暴な解釈となるが、ここでは数寄の概念を、日本人が好む素材美や構造美に対するマニアックな志向にまで拡大解釈をしてみたい。

日本建築においては、これまで述べた4つのボキャブラリーの影響が今でも大きいわけであるが、それは時に合理性の枠組みを超え、マニアックなレベルまで追及される傾向がある。これは、現在の日本のアニメやコンピューターゲームギークにみられる「オタク」と呼ばれるマニアックな志向とも通じるものがあるといえるかもしれない。建築の分野では、機能のみからつくられた工場などに現れた配管類などを偏愛する「工場萌え」などにも通じるところもありそうだ(写真4)。

いずれにせよ、合理性を超えたマニアックな段階まで、「内外の連続」、「状況に合わせた変化」、「多目的性」、「あらわし」、「数寄」を目指したものが、現代の超高層建築のファサードにも求められている。

(つづく)

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▲写真1:伝統的日本建築の縁側。ファサードが内外の空間をつなぐインターフェイスとなっている。(クリックで拡大)

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▲写真2:「あらわし」となって露出された柱と梁と建具で構成された、伝統的日本建築のファサード。(クリックで拡大)

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▲写真3:多目的な用途を併せ持つ日本の縁側。(写真:渡辺瑞帆)(クリックで拡大)

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▲写真4:「工場萌え」。日本人はこうしたディテールや素材の過剰さの中にも美学を見出す。(クリックで拡大)




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