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コラム

建築デザインの素 第7回
マスプロダクションに明日はない?
その2:マスカスタマイゼーションを考える

「建築デザインの素(もと)」では、建築家の山梨知彦さんに、建築にまつわるいろいろな話を毎月語っていただきます。立体デザインの観点ではプロダクトも建築もシームレス。“超巨大プロダクト”目線で読んでいただくのも面白いかと思います。

[プロフィール]
山梨知彦(やまなし ともひこ)。1984年東京芸術大学建築科卒業。1986年東京大学大学院修了。日建設計に入社。現在、執行役員、設計部門代表。代表作に「ルネ青山ビル」「神保町シアタービル」「乃村工藝社」「木材会館」「ホキ美術館」「ソニーシティ大崎」ほか。 受賞「日本建築大賞(ホキ美術館)」「日本建築学会作品賞(ソニーシティ大崎)」他。 書籍「業界が一変する・BIM建設革命」「プロ建築家になる勉強法」他。


■建築におけるマスカスタマイゼーション

前回は、

・コルビュジェのドミノシステム以後、近代建築はその範を大量生産に求めてきた
・でも、建築ってそもそも、プロジェクトごとの個別生産すべきものでは?
・DTPに学ぶと、一品生産であっても経済的合理性は実現可能そうだ
・どうやらそのカギとなるのはICT(Information and Communication Technology)
・ICTを使った、個別生産と大量生産の良いとこ取りをした合理的な一品生産を、マスカスタマイゼーションと呼ぼう

という内容のお話をさせていただいた。そして今週は「建築におけるマスカスタマイゼーション」とは何かを考えてみたい。

■3Dプリンタ

ICTを使った生産を行うシステムとして、最初に頭に浮かぶのは3Dプリンタだろう。正にDTPの3次元版で、自分がほしいモノを3D CADでモデリングして、そのデジタルを3Dプリンタに送り込めば、プリンタがそのモノを立体として一品生産をしてくれる。例えば、自分だけのiPhoneケースがほしかったら、樹脂を扱える3Dプリンタに自分がデザインした3Dデータを送り込めば、樹脂製の自分だけのオリジナルケースを作れる。

大量生産に必要となる金型(これがバカ高い)を用いることなく、陶器の紐作りのように、溶解した樹脂を積層させて直接生産する方式であるから、デジタルデータさえ用意できれば、複雑な形状であっても一品づつ合理的なコストで生産してくれる。

現在、3Dプリンタが非常に大きな注目を集めているもっとも大きな理由は、3Dプリンタとマスカスタマイゼーションとの相性の良さにありそうだ。

■盛る、叩く、延ばす、削る、型押しする、鋳込む

たしかに、3Dプリンタは万能のようにも見える。現時点では解像度が荒く、扱える素材が樹脂や石膏などと限定的であるが、これらが解消され、分子レベルの解像度を持ち、扱える素材がすべての分子となる時代が来れば、すべてのものが3Dプリンタで出力可能になるのかもしれない。3Dプリンタが神となる時代の到来だ。とはいえ、3Dプリンタがその域に達するには相当の年月を要するに違いない。

少なくとも、現時点の3Dプリンタは、先にも述べたように粘土細工の延長線上にある、素材を「盛る」ことで形状を作っているわけであるが、世の中にはまだまだモノ作りの方法は多種多様に存在する。そしてそれぞれの作り方ごとに、長所短所があり、得意不得意があり、そして出来たモノのテイストにも違いがある。例えば金属であれば、日本刀や打ち出しなべは「叩いて」作る鍛造。鉄板の多くはローラーで「伸ばした」圧延である。精巧な金属部材は「削られた」切削であるし、大量生産の車のボディは金型で「型押し」成形されている。また鋳物は文字通り型を使って鋳込まれたもの。

3Dプリンタが解像度を極めるまでは、3Dプリンティング技術のみならず、ICTにより制御された「盛る、叩く、延ばす、削る、型押しする、鋳込む」などの技術が複合したハイブリッドな個別生産技術が、マスカスタマイゼーションを支えていくのではなかろうか。

現状では、レーザーによるカット技術のほかは、CNC工作機における切削や、タレットパンチャーによる型押し程度の技術しか建築では使われていないが、今後ロボット技術の応用により、叩く技術や延ばすが革新されたり、自在に変化する「型」が開発されたりすれば、建築のマスカスタマイゼーションは爆発的に進むに違いない。

■なぜ木質建築なのか?

最近、世界中の建築家が、そしてエンジニアが、木質建築に取り組んでいるが、これは単なるノスタルジックな思いからではなく、建築をプロジェクトが置かれた状態や使われて型に即して自由に生産する、すなわち木質素材が建築のマスカスタマイゼーションに適した素材であるからとも言えそうだ。

木材は軽くてハンドリングがいい。建築物の部材を構成する大きさになっても、人間が素手で運べる稀なる建築材料である。素材の固さも、人間を支持するには過不足がない一方で、人がぶつかっても致命傷に至ることが少ない適度な柔らかさを持っている。そのうえ加工がしやすい。日曜大工の中心的素材が木材であることからも自明なように、木材はそもそもカスタマイズしやすい特性を持っているのだが、手仕事が高価なものになってしまった大量生産の時代の中で、木材は高価なものとなり、建築の中で使われる機会が激減してしまった。

ところがICTの発展によりCNC工作機が登場することで、加工しやすい木材は、現時点において現実的に建築のマスカスタマイゼーションを担いえる素材としてがぜん注目を集めるに至った。なぜ今木質に注目が集まっているのかを、マスカスタマイゼーションという視点から見るとこんな風にも解釈ができる。木材は今、古くて新しい素材となったのだ。

■さらば金型

今後は木材のみならず、これまで大量生産向きと思われていた金属や樹脂といった素材も、そして未知なる新素材もが、金型による大量生産に代わる新たな成型方法が開発されることで、マスカスタマイゼーションに適した素材へと変身していくことだろう。21世紀のモノづくりは、「さらば金型」、「ようこそマスカスタマイゼーション」という動きが重要となるのではと、僕は考えている。

 

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▲3Dプリンタとそれによるモノ作りの変化に詳しい慶応大学の田中浩也さんは、僕がマスカスタマイゼーションと呼んでいるものを、より社会的な視座に重きを置き、ソシアル・ファブリケーション(SF)と呼び、3Dプリンタこそがそれを実現する装置として位置づけている。(「SFを実現する3Dプリンタの想像力」、講談社現代新書)。(クリックで拡大)


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▲CNC工作機で加工した木材を使用した建築ファサード(木材会館)。デジタルデータさえ正確に作成すれば、CNC加工機はそのデータに従い正確に木材を刻む。面倒だと文句を言うこともなく。(クリックで拡大)


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▲CNC工作機で実際に木材を切削加工する様子。刻んでいるは、伝統的な追っかけ大栓継ぎであるが、人間の約100倍の速さで正確かつ精巧に加工されていく。興味深いのは、刃物やそのセッティングのほんのわずかな違いで、同じCNC工作機を使っていても仕上がり精度がまったく違うことだ。デジタルクラフトマンシップとでも呼びたくなるセンスが発揮されている。(クリックで拡大)

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▲CNC工作機で加工を終えた部材。加工コストが大きな比率を占める木材において、CNC工作機により人間の100倍のスピードで加工することは、加工コストを100分の1に低減することに等しい。ICTを適切に用いることで、正確であり、一品生産でありながら、合理的なコストを実現して、マスカスタマイゼーションを現実のものとしている。(クリックで拡大)

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