

秋田道夫
1953年大阪府生まれ。1977年愛知県立芸術大学美術学部デザイン科卒業。同年トリオ(現ケンウッド)入社。1982年ソニー入社。1988年よりフリーランスのプロダクトデザイナー。
http://www.michioakita.jp/




写真上が六本木ヒルズのメインエントランスなどに設置されている「セキュリティーゲート」(高見沢サイバネティック/1998年)。下が「LED式薄型交通信号機」(信号電材/2006年)




ハイアールの製品より。上が「冷蔵庫」(2007年)、下が「5リットル乾燥洗濯機」(2007年)。(クリックで拡大)
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2004年に登場したデバイスタイルの円錐形のコーヒーメーカー「CA-3S」以降、秋田道夫氏のデザインは、本質的な形状としての佇まいを感じさせるものが続いている。六本木ヒルズのセキュリティゲートや街中の交差点で増殖しているLED式の信号機など、標準的な形状の中に秋田氏らしいヒューマンな趣さえ感じる。家電系ではハイアールの冷蔵庫と洗濯機を手掛けた後、最近はMAデザインからIH調理器などの製品群をリリース。
特集「デザイン家電の匠たち」の第1回として、多方面で活躍する秋田道夫氏に、デザイン家電を少し俯瞰した視点で語っていただいた。
−−そもそもデザイン家電とはなんでしょうか。
「デザイン何々」という表現は、家電に限らず携帯電話やマンションなど、いろいろ使われるようになりましたが、裏返せば今まではそういうものに対してデザインの認識がなかったわけです。そこで「デザイン」という言葉を付けることで通常の製品とは違うという”台”を設けたのではないかと思います。
そして僕は「デザイン家電」を否定的に捉えてはいません。デザイン家電と呼んでもらえるんだったらそれもかまわないという風に受け入れています。まず注目してもらうことが大事で、そこからデザイン家電という名の製品そのものが咀嚼されていくのだと思います。
デザイン家電が生まれた背景には、大手家電メーカーがユーザーの気持ちを捉えようとして毎年、ひょっとしたら半年で、性能向上を理由に製品のデザインをどんどん変えていった。だけど、本当にそんなにカタチが変わる必要があるのかという素朴な疑問が根っこにあると思います。パソコンのようにデバイスがどんどん進化し値段も安くなっていくのと同じようなペースで、生活家電も変わる必要があるのだろうかという疑問です。
性能の向上が一段落した時に、気に入ったカタチを長く使いたいというユーザーの気持ちにこたえるために生まれたのが一連のデザイン家電ではないでしょうか。
現在販売されているデザイン家電は、すでに長いもので5年間売られ続けています。数量的には、大手メーカーが1年で売り上げる台数に満たないのかもしれませんが、そういった意味では当初のデザイン家電の役割は成果を上げているといってもおかしくはないかと思います。
−−デザイン家電も普通の家電ですね。
「デザイン家電」と「デザインでないもの家電」というと変ですけど、デザイン家電とインハウスデザイナーが手掛けながらデザイン家電と呼ばれていないものの差というのは、実はデザインの良し悪しと違う尺度があるのではないでしょうか。
デザイン家電は、先にお話したように性能面をまったくかたちとしてアピールしていないですね。そういう「売りたいポイント」をどんどん消していってその製品のあるべきカタチを端的に表現します。だからシンプルで美しいものになります。もしインハウスであっても同じ捉え方でデザインすれば、きっと「デザイン家電 by インハウス」が生まれると思います。
僕は量販店に並ぶ家電とデザイン家電、その両極の真ん中の領域を埋めていきたい。デザインする条件に「製造価格」「販売価格」という会社で言われるような「生々しい話」を置きながら進めていって、そういう姿を見てもらえればと思います。デザイナーというのは「条件が良ければ私にもそういうデザインできます」と思っているものですから。これは僕がインハウス時代に思っていたことですから確かでしょう。
そうする自ずとデザイン家電も分解され、吸収されるものは吸収されて、本当にデザイン家電と呼ぶにふさわしいものが残ると思います。それは「新デザイン家電」なのかもしれませんが、すでにデザイナーが明らかだということだけではデザイン家電とは言われないと思います。
−−著名デザイナーの記名性だけではもう古い?
例えばIKEAの商品群は、デザイナーの名前が明らかですよね。高いものから安いものまでデザイナーの名前が表示されている。あれは僕にとっては理想的というか、デザイナーの名前を明らかにして、その人たちが自信を持って商品を勧めることは悪いことだとは思わないです。安い値段で買えるものにデザイナーの名前が出ていてもおかしくない時代にしたい。
ちょうど今量販店ではフレッシュマンセールの時期ですね。新入学や新入社員、あるいは単身赴任の人のために電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、オーブントースターなど、総ぐるみで6万、7万という企画が催されています。そういうセールでハイアールの僕がデザインした冷蔵庫や洗濯機も取り上げられていて、そこに「秋田道夫デザイン」と書いてあったりするんですね(笑)。この間もビックカメラに行ったら、その冷蔵庫に最安値と書かれていました。僕はそれはラッキーというか、OKと思いました。実際に家に持って帰って使っていただければ分かる。そういう風に考えています。
−−一般的には「デザイン家電」はデザインという付加価値を付けてリッチに見せているという認識があります。一方で量販店に並ぶ「機能重視」の製品の方が生活には使いやすいという評価もあります。
例えばMAデザインの場合は、どこでも買えるような商品で、性能に見合った値段にしましょうというテーマを持っています。デザイナーの名前が付加価値になるとは一切考えていません。そういったことをきちんと伝えていけば、主婦という、すごく目利きのユーザー層にもアピールできると思っています。
−−秋田さんの中で機能とデザインはどういうバランスですか。
さきほど使われた機能重視の「機能」という言葉は「性能」を意味していると思います。機能というのは使いやすいという意味であって、よく冷える、早く冷えるというのは性能ですよね。それは形には落とし込めません。
扉を開けるときに左右どちらからでも開きますとか、下のほうにある引き出しも上から取っ手が掛かるので開きやすいというのを僕は機能だと思っています。そういった意味でデザイナーが「機能」でできることはたくさんあって、通念として「こういうのが、らしいよね」というのを少しずつ壊していきたい。冷蔵庫も家具と同じような開け方をするんだったら、家具のような取っ手も可能なはずですよね。
−−メーカーの設計者やインハウスデザイナーの皆さんも当然「機能」やアイデアを考えると思いますが、メーカーさんの中で行き詰って外部のデザイナーさんに仕事を依頼される。そこで外部のデザイナーに期待されているのは発想力なのでしょうか。
機能やデザインアイデアを処理しきれないのは外部のデザイナーの方かもしれないですよね。工場で設計者とお話ししてスケッチの大部分が描き直しになったこともあります。
−−秋田さんのスケッチがですか。
はい。まず概念としてこういうのが自分は良いと思っています、というスケッチを持っていってお見せするわけですね。何十年もやっていますから中身のあるものはこれくらいのボリュームでと、ブラックボックスのボリュームくらいは分かったつもりで絵を描くわけです。
ところが部品の流通の度合いによって、部品の値段がやたらと高かったり安かったりします。何百万個作らないとその部品は起こせませんということになって、特注はほぼあり得ないわけで、既存の部品を使わざるを得ない。その既存の部品について僕は知らないことがいっぱいあるので、ここにこれが入るかどうかということは後から判明します。
そうすると僕が描いたスケッチは絵空事ではないんですけど、努力目標みたいなものですから、そこから設計者も努力するし僕も努力することになる。ですからスケッチ通りに作ってくださいということは一切言わない。最初は、本当に踏まれ台、たたき台として絵を持っていきますね。
−−秋田さんのデザインは最初に決定的なフォルムがあって、必ずそうしないといけないということではないのですね。許容範囲が広いのでしょうか。
いや、自分が設計者になって設計できないものは作ってとは言えないです(笑)。
−−インハウスデザイナーの方は現実を分かっているだけに、逆にそこから抜けられなくなるのでしょうか。
買う人の気持ちになるのと作り手の気持ちになるのと、両方の目線がないとデザインの落しどころが見えないという難しさはあります。
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