●ファクタスデザインの製作現場
−−改めて、ワークフローの話をお聞きしたいと思います。例えば、iPhoneなどの新機種が出た場合、対応した金属ケースを作るにはどんな行程をとっているのでしょうか。
鉢呂:iPhoneの場合だと、アップルが図面を出していますから、そこから忠実にRhinocerosでモデリングデータを作成して、デザインを施していきます。一方、Xperiaの方は図面を公表していないので、実機を入手してノギスで測って作っていきます。本当はスキャンした方がよいのでしょうけれど。
−−ノギスで実測した数値からRhinoceorsでモデリングされるわけですね。そのデータを加工機に入れるのですか?
鉢呂:RhinocerosのデータをCAMソフトのCraft MILLに持っていきます。それで最終的な出力形状に計算したデータを加工機に送ります。
Rhinocerosでモデリングした後、通常ですとデザイナーはCAMは操作しないので、加工屋さんがCAMデータ化していく流れですが、自分でCAMデータを操ることによって、カッターパスなどがある程度コントロールできるんです。そこがわりと面白くて、細いエンドミルでやればやるほど細かくできますからね。パーティングラインはRhinoceros上で形にして、Craft MILLにもっていって、細かい形状を作っていきます。
−−RhinocerosのデータをCraft MILLで切削用のデータに変換するわけですね。
鉢呂:はい。Craft MILLでも逆テーパーとかがついている場合だと刃物が入らないので、それはできるなりの形にしていきます。
そういった場合、Craft MILLで計算させて、今までの蓄積されたデータパスがあるのでそれでやってみて、画面上で全部計算をさせるんです。そうすると、加工時間が何時間何分と出ます。そこで時間が掛かりすぎる場合は、違う加工方法を考えたりします。
あとは、もう一度Rhinocerosに戻って、モデリングデータとしては穴を塞ぎ、CAM上で塞いだまま計算をさせて最後の最後に穴を開けるとか。そうすると、加工が早くなる場合もあります。
−−なるほど、そこは経験とノウハウが活かされているのですね。
鉢呂:そうですね。さらに日々蓄積されていく感じです。
−−ちなみに、ケースは表ケースと裏ケースにそれぞれ両面があるので、全部で4面あると思いますが、それぞれを削りだすのにどのくらいの時間が掛かるのですか。
鉢呂:例えばXperiaですと、4、5時間で片面です。今は、3個取りといって、3個づつ一度に削るんです。3個だと、夕方にセットをして朝になると出来上がっています。朝に裏返してセットすると、夕方より少し前にはできあがっています。その繰り返しのパターンで削っています。
−−1枚板から3個削るのですか。
鉢呂:いえ、あらかじめ材料屋さんにケース1個分の板状のアルミ板に切ってもらっています。それを加工機に3枚セットをして削って、次に裏返して削って、それをもう一度別の加工機にセットをして、ぐるぐると奇麗に削っていきます。最後に金属を磨く液体があるので、それで手で磨いて仕上げています。そうすると、ピカピカになるんです。
−−アルミは酸化しますよね。表面処理はどうされるのでしょう。
鉢呂:そうですね、材料によります。例えばA2017という材料はそうでもないのですが、A7075だとすぐに錆びてしまうんです。なので、磨く時にオイル分が混ざっている磨き粉で磨くと、ピカピカになるので、その状態でお客さんに納品します。
−−そうすると錆びないのですか。
鉢呂:使い方にもよりますが、白く錆びてくもってきても、磨くとすぐにピカピカになるので、銀製品のように逆に手入れを楽しんでいただきたいんです。他の、例えばアルマイトのような表面処理をしてしまうとそれきりで、金属磨きで磨くとアルマイトがはげてしまいますから、逆に生地のままのほうが一番良いのではないかなと思いますね。
−−お客さんが生地そのままを楽しむというのもコンセプトなのですね。
鉢呂:そうですね。そういうお客さんもいらっしゃいますし、逆にメッキのようにアルマイトをしたいというお客さんもいらっしゃいますけれど。
−−カスタムメイドというのが、お客さんにとっては魅力ですね。
鉢呂:そうですね。
−−鉢呂さんにとっては金属のどんなところが魅力なんですか。
鉢呂:なんと言いますか、うちの製品は金属ですが、お客さんからは触り心地が良いと言われるので、けっして冷たい素材ではないと思っています。プラスチックなどとは違って、金属には貴金属というジャンルもあるので、素材そのものにプラスチックなどより価値があったり、魅力があるのかなと思っています。
現状はアルミ加工が中心ですが、アルミにもさまざまな種類があります。例えば普通の「A2017-ジュラルミン」、「A7075-超々ジュラルミン」などがありますが、FACTRONではWebサイトでの注文時にいろいろ選べるようにしています。普通の「A2017-ジュラルミン」と、少し値段が高めの「A7075-超々ジュラルミン」のどちらかを選んでもらうと、たいていのお客さんは「A7075-超々ジュラルミン」を選ばれるんです。データ的には超々ジュラルミンだとほぼステンレスに近い表面硬度があり、傷もなかなかつかないなど、そういう点が魅力的なのかなと思います。
●金属プロダクトと加工技術の可能性
−−最新の加工技術を使ったモノなど、今後作ってみたい製品はありますか。
鉢呂:今、加工機を作っている会社とお付き合いがあって、その会社が5軸の機械を開発しています。それが6月の設計フェアで発表するので、5軸も対応できるようなデザインをいろいろ考えているところです。
−−5軸と4軸では、加工やデザインの違いというのはどのあたりなのですか。
鉢呂:例えば当社の加工機は3軸と4軸なのですが、3軸というのはXYZだけで、4軸だと裏表加工まで一度に自動的にできます。筒状のモノだと、例えばペットボトルの原型を作るなどは8回転くらいで、いろいろできます。それが4軸です。5軸だと、さらに自由自在に動くので、人間が彫刻をするようにどんなモノでも削れます。ただその場合、よほど優秀なCAMソフトを使わないと、制御しきれなくて固定冶具にあたってしまうといったこともあるみたいなので、ハードよりもソフトが重要になるようです。なにしろ5軸のCAMソフトは500万円近くします。その分良いものができますね。
−−FACTRONの金属ケースは3軸のXYZでも製作できるモノですね。
鉢呂:そうです。これにあと、段取りを押し直しして斜めに固定すれば3軸でも5軸と同じモノが削れます。ただ、5軸だとワンチャックで自由自在にできるんです。
−−5軸のメリットというのは、1回で自由な形状を作れることですね。3軸だと作れないという形状があるのですか。
鉢呂:そうではなくて、必ず上からなので逆テーパーは無理なんです。5軸だとそれが自由自在にできます。それも機械によっては、ありとあらゆる加工方法があって、下の台が自由自在に動いて、上が上下に動くだけだったりとか、上の刃が自由自在に動くだとか。複雑に動くのがたくさんあるみたいですけれどね。
−−そういう機械は国産なのですか。
鉢呂:工作機械というジャンルでいうと、日本製が一番性能はいいみたいです。だから日本製とドイツ製がシェアが世界で一番多くて。ヤマザキマザック、森精機、ファナックもありますが、大手というのはほとんど日本製なんですよね。5軸ではドイツ製はDMGが有名みたいですけれどね。
−−リーズナブルな価格帯ですと、ローランド ディー.ジー.の切削機がありますが、それよりハイエンドの機械ですね。
鉢呂:そうですね。ローランドはモデリングマシンというジャンルで、当社が導入しているのは岩間工業所のマシンですけれど、3Dプリンタに近いジャンルですね。ハイエンドの工作機械になると、削りだしたものは製品として売るのではなくて、どちらかと言うと金型を作るための機械で、マザーマシンと言われています。
●ファクタスデザインのこれからの展開
−−ファクタスデザインとしてはスマートフォン系以外でデザイナーとして手がけていきたいこと、他の日常的アイテムで作りたいモノなどはありますか。
鉢呂:FACTRONの製品を購入されたお客様の傾向は分かりますので、そういう人向けに何か違うアイテムを提案できればと思っています。例えば「パスケース」や「名刺入れ」、あとはウォッチとクロックを兼ね備えた「デスクトップクロック」などです。ちょっと趣味的だけれど、今まであまりなかったような感じのモノですね。
それと今は、高級時計の発想で、宝石をちりばめたようなイメージのケースを作れないか試作しています。より付加価値の高い製品に仕上げられればと考えています。
−−FACTRONのデザインはターゲットが男性向けですが、女性向けのモノも考えていたりはするのですか。
鉢呂:考えたりはするのですけれど、当面は現在の顧客ベースで発想していきたいと思います。
−−世の中が大量生産大量消費の時代じゃなくなってきていますしカスタムメイドのデザインというのは、今後もっと出てくるような気がしていて、鉢呂さんは良い立場に立っていらっしゃるみたいだなと思います。なのでiPhoneケース以外での今後の展開を楽しみに思っています。
鉢呂:時計を作って欲しいという要望もあるので、普通の時計を作っても面白くないですし、先ほどのような全然違う感じの時計を作ってみたいと思っています。
ムーブ(時計の中身)は自分では作れないので、どこかのメーカーに協力していただいたくと思いますが、時計もやはり小さくて機械式時計だとずっと価値が変わらないですし、百年後でも使える、そういったモノを作りたいです。
−−いろんな産業をみていると、デジタルが席巻した後、アナログ回帰するんですよね。例えばCDが普及した後のアナログ盤レコードなど。これまでのデザイナーさんは大量生産物に価値を向ける方が多かったと思うのですけれども、鉢呂さんはスタンスが違って、一対一を大事にされるといいますか、モノ作りに、時計職人的なスタンスを感じます。
鉢呂:実際には、大量生産モノも扱ってはいるのですけれども、より、価値観を上げていくには、やはり小ロットのモノの方がよいのかなと思いますね。自分で作って箱に入れて、発送するので分かりやすいビジネスです。作家さんに近いのですが、ある一定のレベルの商品を作り続けられるといった感じです。
ダイレクトにお客さんの意見が聞こえてくるので、それでちゃんと作るとちゃんと応えてくれて、その積み重ねですね。
−−ある意味デジタル時代の地場産業のような気がしますよね。1つの素材についてアプローチされて、こだわっている中でモノを作られている。道具が新しいだけで、モノ作りの普遍的なスタンスだと思います。
鉢呂:そう言っていただけるとありがたいです。
−−ありがとうございました。
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