┏…・・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・…┓ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥       pdwebメールマガジン第29号・・・2012/8/27       編集制作:pdweb.jp編集部 http://pdweb.jp ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ┗…・・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・…┛ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓ ● pdwebメールマガジン第29号 目次 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ●連載コラム:西山浩平の空想デザイン 第15回:たくましく生きる ●リレーコラム:若手デザイナーの眼差し 第5回:501DESIGNSTUDIO ●2013年、春! 「デザイナーズFILE 2013」刊行のお知らせ ●pdwebデザインコンペ2012のご案内 ●編集後記 ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●連載コラム:西山浩平の空想デザイン 第15回:たくましく生きる ○ぼろをまとった女優 失礼だと分かっていたが、どうしてもその女性から目が離せなかった。医者か らたんぱく質をもっと採るようにと強く勧告されて、これまでベジタリアンで 通してきた食生活を改めて、数週間前から魚を食べるようにしている。慣れぬ 目黒のスーパーの魚売り場で、献立のイメージもわかず、ボーとほかの人が何 を買っていくのかを見ていたときのことだ。 魚の切り身が陳列してあるアイランド型の冷蔵ショーケースの向こう側に、ど う見ても舞台経験者と思われる女性がやってきた。かつて劇団で舞台美術をや っていたから、女優や俳優は一目見て分かる。舞台に立つ人には、独特の特徴 がある。どんなにぼろをまとっても、ジャージ姿でも、立ち振る舞いが違うの だ。50歳を越えたあたりだろうか。決して背は高くはないが、ひっつめた髪か らうなじがすっと伸びて、すらりとしていた。 しかし決して、いい身なりとは形容し難い格好をしていた。外は猛暑だという のに、黒いTシャツのうえに80年代にはやったジャンパーを羽織り、ひざの抜 けたコットンのパンツは、紺色が退色して赤紫色に変わっていた。ストリート ピープル一歩手前という風情だ。単に夕飯の食材の買出しに部屋着のまま出て きたという感じでは決してなかった。後れ毛の束が、耳の前からだらりの垂れ 下がり、生活との闘いに疲れているようでもあった。他方で目力には相当なも のがあった。背筋もまっすぐ伸びていた。着るものは貧しくても、表情には理 性が感じられた。もはや使われなくて久しくなった「身なりはぼろでも心は錦」 という表現がぴったりだった。 ○こっちもまけて 入り口のほうからつかつかと歩いてきた彼女は、魚売り場にたどり着くなり、 陳列されている肴の切り身をさっと見比べた。そして値下げの札を貼るお兄さ んが近くにやってくるのを待って、やおらに手まねをして、自分が買いたい魚 のパッケージに指をさした。まだ正価の値札しかついていないのに、だ。 6時半を回ったばかりで、その店員もまだ、すべての商品を値引くつもりはな かったろうし、お客さんにだまって指で指図をされたことも気に障ったのだろ う。少しむっとした様子ではあったが、女性の横に立って少し考えた後、黙っ て20パーセントOFFの札を貼った。その女性は、当たり前のようにお礼も言わ ず値引かせたその魚のパッケージを手に取ると、さっさとレジのほうへ向かっ ていった。 ○Being poor is different from being Broke 神戸で生まれた僕は、お店で値切ることに対して違和感を覚えるということは ない。しかしあくまでも愛嬌のある会話や駆け引きがあることが前提だ。リピ ーターであることと引き換えにディスカウントを要求するというコンテキスト の上で値引き交渉が成り立つものだと理解している。 とはいっても東京では値引きを要求することは、どこか口はばったいところが ある。白金台や長者丸といった高級住宅街を近くに控えた目黒という場所柄を 考えると、その女性も口に出して値引きを要求するのはさぞかし恥ずかしかっ たのだろう。無言で交渉をしたかったのもなんとなく分かる。 しかし、その東京で値引きを敢行していたからその女性のことが気になってい るのでは決してなかった。もっと何か自分の深層心理に近いところで、何かを 感じていたが、なぜその様子に自分の無意識が反応しているのかはそのときは まったく分からなかった。ただ単にその女性のことが気になって気になって仕 方がなかった。 ○母親の背中 父親の背中を見て育つという表現はあっても、それが、母親に置き換わること はあまりない。しかし母親の生き様が無意識に子供の性格の形成に与える度合 いは小さくはないと思う。僕がまだ小学校に上がったばかりの頃、父親が病に 倒れた。まだ20代後半だった母親は、それまでのおしゃれをスパッとやめて、 闘病を続ける父親の看病をしながら、幼い子供3人の面倒をみて、家庭を守り きった。 自分のことはいとわず、ぎりぎりの家計を守っていた母親の気持ちになってみ ると、本当はもっとおしゃれを楽しみたかったろう。それを思うと心がざわつ く。おしゃれをしたい盛りの女性が、できないでいることをみている男性にも 切ない気持ちはある。 ○女性賛歌 数日後、答えはやってきた。「貧しくてもいいものを家族に食べさせたい、そ のためには人が恥ずかしいと思うこともいとわない」。その女性が実践してい たのは、そういうことでなかったか? もっと大事なもののために、身なりと か、恥とかを切り捨てる決意をその女性の目に感じなかったか? ぼろはまと ってもしゃんと伸びた背筋に、凛とした美意識を感じなかったか? おそらく 女優であろうその女性が、スーパーで言葉を発せずに値引きをして魚の切り身 を買っていく行為に、女性特有のたくましさを感じたのだと思う。 そして、普段あまり語られることのない、そういった女性美をかもし出してい たその女性にちょっとキュンとしたのだと思う。今はあまり美徳として語られ ることのない女性の美しさなのかもしれない。この20年で女性の平均的な美し さがぐんと上がった。そんな時代だからこそ見た目の美しさ以上に、気持ちの 美しさにも目を向けてもいいだろう。 西山浩平 Linkedin : Kohei Nishiyama Twitter : Kohei Nishiyama ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●リレーコラム:若手デザイナーの眼差し 第5回:501DESIGNSTUDIO ○デザインスタジオとして 「501DESIGNSTUDIO (ゴーマルイチデザインスタジオ)」という2人組のデザイ ンユニットとして活動を始めてから今年で丸5年となりました。元々2人は多摩 美術大学という同じ美術大学を卒業したのですが、代表の竹中は「工芸学科金 属専攻」、デザイナーの五十嵐は「立体デザイン学科インテリア専攻」とそれ ぞれ出身学科が異なります。それを象徴するかのように、スタジオ内では竹中 が素材を直接加工するような「工芸家」、五十嵐が図面を起こしフォルムを決 定する「デザイナー」という役割分担で、制作からデザインまで包括した活動 をしております。 ○つくること 近年、生産体制の変化により、制作過程そのものが分離してきているように感 じています。例えば“デザイン”や“クラフト”といった「言葉」そのものを シンボリズム化し分離させたモノ作りであったり、またそれを不自然に強調さ せるような市場づくりなどがあると思います。ブランディングと言われればそ れまでですが、本来何かを作るということは、必然的な行為や事象においての み成立するものだと思います。私達はそのような分離、多様化されていった解 釈を持つモノ作りというものを今一度、根源的なところから探りたいと考えデ ザインユニットとしての活動を開始しました。 ○ 実践として 例えば私達の身のまわりにはけっして長く使われることなく簡単に消費、放棄 され、残念ながら道具としての用途を失いかけたモノが多くあります。そのよ うな中で次から次へと新しいデザインの製品が生産され、売れ残った大量在庫 の商品は数年後にまた大量在庫になるという悪循環が起きています。 私達が制作した「GALATEA」という作品は、そのような現状の象徴である同じ 型で大量生産されたひと昔前の「意匠」を纏うステンレス製のスプーンに、そ れとは対極とされる唯一性の高い手仕事の「鍛金」(たんきん:カナヅチで金 属の板を何度も叩きながら成形する工芸技法)を取り入れることで、その用途 を失いかけたモノたちに新たないのちを吹き込むというものです。 これは近代の機械産業による生産効率化を図った「工業」的システムと、1つ のモノに丁寧に時間を費やし熟成させる古来の手仕事「工芸」を、あえて密接 な関係にすることで、今までにない道具やオブジェクトとして価値のあるモノ へと生まれ変わらせ、分離した制作過程の問題点を見つめ直そうとした試みで す。 そして2009年には、その集大成としてリビングデザインセンターOZONEにおい て、日本金属洋食器工業組合の協力のもと「e・mul・sion 工芸と工業」とい う展示発表を行いました。これは、新潟県の燕(つばめ)市の町工場ごとに抱 えている在庫品の象徴的なデザインのスプーンを集め、それを町工場ごとに “現状”と“僕らの手仕事を加えたモノ”を展示して、燕のモノ作りの現状を 知ってもらうことで大量在庫を繰り返す悪循環を止めようと考えました。 ○その他の活動 現在、私達のスタジオ内で企画から生産まで一貫して制作し生み出された商品 を、デザインイベントや展示会場で直接お客様に対面して販売する「セルフプ ロダクション」という形式をベースに活動展開をしておりますが、その他の活 動として2011年の秋、1つのテーマに対して複数の作り手がモノ作りに対して 取り組むプロジェクト「sample少しいいこと + プロダクト」に参加させてい ただきました。これはプロダクトデザイナーの酒井俊彦さん主宰によるプロジ ェクトですが、12組のデザイナーが仕様変更により本来の目的のために使われ なく、大量に保管されたシートの形にカットされた国産高級車の革などを使用 しiPadとiPhone用のケースを製作するという活動です。 また先日、毎日新聞社主催で、環境省の協力のもと「MOTTAINAI×震災被害木 を使ったみんなでつくるワークショップ」という東日本大震災復興支援を目的 に、アートやデザインのクリエイターによる震災被害木を使ったワークショッ プを行いました。ワークショップ内ではいろいろな「かたち」をしている木の 中から好きなモノを選んで型取りし、その型に錫(すず)という金属を溶かし流 しこんで、「かたち」をうつしとることで、箸置きやアクセサリーなどの新た な「使い方」を探るという提案をさせていただきました。 このようにモノを作って売るという行為だけでなく、作り手同士がテーマを共 有させながらモノツ作りを行ったり、参加型のワークショップを通すことで作 ることそのものへの意味合いを考えていただけるような活動にも力を入れて行 こうと考えます。 最後に、2012年もさまざまな展示やプロジェクトに参加させていただく予定で すが、多くの工業製品があふれかえる現状が続く中で、モノが生まれる瞬間に 立ち会える、手仕事による工業技術を用いながら暮らしの中における道具など の提案をして行ければと思います。 501DESIGNSTUDIO (ゴーマルイチデザインスタジオ) 代表 竹中 壮一(たけなか そういち)とデザイナー五十嵐 広威(いがらし ひ ろい)によるデザインユニット。2007年に設立。 竹中壮一 : 1977年生まれ。多摩美術大学美術学部工芸学科金属専攻卒業。 五十嵐広威: 1977年生まれ。多摩美術大学美術学部立体デザイン専攻卒業。 http://501designstudio.com/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■○■pdwebメールマガジンでは広告のご利用をお待ちしています。■○■ イベント/セミナーの告知や集客、新製品のご案内に。臨時増刊もあります。 ■○■お問い合わせはinfo@pdweb.jpまで。料金:1行6,000円〜。 ■○■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●2013年、春! 「デザイナーズFILE 2013」刊行のお知らせ 削除しました。 ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●pdwebデザインコンペ2012のご案内 削除しました。 ////////////////////////////////////////////////////////////////////// ●編集後記 編集後記のネタが思いつかず、去年の8月は何を書いていたかバックナンバー を読み返したところ、スマホやタブレットのネタだった。当時はスマホ導入を 考えていたのだ。ところが、今も1年前と同じ「ガラケー+iPod touch+ポケ ットWi-Fiルーター」を使っている。変わった点といえばポケットWi-Fiルータ ーの通信速度が上がったことくらいか。ざっと周りを見渡しても、電子ブック 時代は来そうで来ないし、この1年、何か進歩があっただろうか? 今は次の 新しい提案やテクノロジーが生まれる前の、成熟期というか安定期のような気 がする。(M) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■■■取材・執筆・DTPデザイン・印刷物納品を行います! カラーズ(有) ■企業のユーザー事例、パンフレット、Webコンテンツなどの制作を行います。 ■お問い合わせはinfo@pdweb.jpまで。お待ちしています。■■■■■■■■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ pdwebメールマガジンNo.29 2012年8月27日発行 2,400部配信 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓   pdwebメールマガジン登録変更および解除のご案内 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ ※このメールに返信はできません。配信アドレスの変更や停止を希望される 方は、pdweb.jpのトップページ右側の登録フォームにて操作をお願いいたし ます。 http://pdweb.jp ┏…・・・━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・…┓ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥   編集・制作:pdweb.jp編集部   〒151-0071 東京都渋谷区本町1-20-2-909 カラーズ有限会社   お問合せ先 info@pdweb.jp   Copyright(C) Colors.,LTD. 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